当方、社会不適合につき

アスペ系社会不適合者奮闘記 25歳現在

儀式 (監督:大島渚)を見た

思ったこと 「桜田家、めっちゃ口悪いな!」 以下感想

桜田家に翻弄されるテルミチ、満洲男という二人の主人公が居るように思える作品だった。テルミチは頭がよく器用で聡明で色男でもある。対して満洲男は自信がなさげでいまいち踏ん切りの悪い性格でパッとしない。対照的な二人だ。

満洲男がもじもじしている時にさっと表れてはその場を乗り切れるような助け舟を出すテルミチ。しかし一方で女性関係に関しては手が早く、踏ん切りの悪い満洲男とは対照的に描かれている。

漢らしく勇ましいテルミチと陰気で責任感のない満洲男。二人の従妹のセツコは最初は満洲男に惹かれていた(と思う)が、テルミチに初夜を捧げる。満洲男の初恋の相手であるリツコもテルミチに抱かれ、そのうえ自分はフラれてしまう。満洲男はこのことで強い敗北感を味わうのであった。こりゃ枕相手に初夜の相手だと発狂しても無理はないかもしれない。

家父長制にこだわり「家督を継ぐ」ことを重視する桜田家と「好きなことを、自由に」と新しい時代を生きようとする満洲男との対比も印象的ではある。まあ満洲男の場合は家督を継ぐという親戚一同からの重圧に耐えきれず、逃げに逃げて結局フラフラしているような節は大いにあるのだが。

とにかく満洲男は踏ん切りが悪い。びっくりするほど踏ん切りが悪い、セツコが自殺するときなんか見てないで止めてやればいいのに、黙ってみているだけだった。これはフラれて当然かもしれないと思いながらも、彼は彼自身がどうしていいのかわからないし、何が正しいのか自分でもわからないと独白しているように、彼は主体性の無い若者なのである。現代っ子とおなじである。こりゃかわいそうと言われるわけだ。

満洲男はテルミチに対して強いコンプレックスがある。テルミチより劣っている、自分は駄目な人間なんだという強い思い込みがあったのだろう。また、弟を生き埋めにしてしまったという大きな精神的トラウマも抱えている。

何か成し遂げても自分の上には必ずテルミチが居る。何もかもテルミチにはかなわない。唯一の野球も母の死を受けて辞めてしまった。テルミチは恐らく満洲男をかわいがっていたのだろう、彼の為にセツコを置いて家を出ていった。しかしながら最終的にセツコもテルミチの元へ旅立ってしまう。初恋も恋も奪われ満洲男は何もかも失ってしまう。だがそのあとには何も残らなかった。ただただ敗北感だけが彼の心の中にあった。そりゃ土の下の音も聞きたくなる。

満洲男は桜田家としてでは無く、満洲男として生きるべきであるという感情やテルミチの意志を感じた。彼は満洲男を開放したかったのだろう。もしくはこの腐敗しきった桜田という一族に終止符を打ちたかったのではなかろうか。

当時の社会制度に対する風刺などがいろいろちりばめられていたそうだが、テルミチのカリスマ的な要素と満洲男の凡人的な素質の対比、桜田一族の狂気、異常な”形式”へのこだわり等、今見てもかなり面白い内容であった。

なにより満洲男の語り草もかなり分かりやすい。全てにあきらめを抱いている頽廃的な雰囲気が全体に立ち込めており、中々である。陰鬱で暗い物語が好きな人にはお勧めできる作品だと思った。

 

以下あらすじ(ネタバレ)

 

①「テルミチシス、テルミチ」という電報を受けとった主人公は真相を確かめにテルミチの暮らす離島へと渡る。

 

②主人公の満洲男(満州で生まれた為)は満州からで母と共に父の生家へ帰ってきた。家は祖父である一臣が納める大家で、沢山の親類と共に暮らしている。日本に帰ってきた満州男と母だったが、父は自殺しており、母は体調不良で一週間も寝込んでいる。桜田家には出自不明の親戚が多く同席し、母も父もいない”テルミチ”という一つ上の従妹が暮らしていた。ロシア兵は恐ろしかっただろうと詰め寄る叔父、いやロシア兵は優しかったろうと詰め寄る共産主義者の叔父。共産党員の叔父以外家族全員が母がロシア兵に凌辱されたのだと考えており、主人公の満洲男には祖父を含め、親戚の叔父が戦争犯罪者の様に思えていた、年が近く頭も切れるテルミチだけが信頼できる”男”という存在だった。

 

満州男は地面に耳をつけて音を聞いている。不思議に思った従妹のリツコらに何をしているのか聞かれた満洲男は「昔、母と土の下に生まれたばかりの赤ん坊である弟を埋めたことがある。聞こえるわけもないのにまだ声がする気がして耳を付けてしまう」と告げる。何かを察したテルミチは満洲男含めその場にいた弟分のタダシ、リツコらに「このことは絶対誰にも話すな」と告げる。

 

③父の一周忌の日、テルミチを含め、同じく従妹で同年代のリツコ、リツコの母セツコ、タダシと野球を楽しむ。満州で野球経験のあった満州男ははじめてテルミチよりも優れた才を見せることとなる。「そのグローブはあなたのお父さんのものだ」というセツコ。この後満州男は野球にのめりこみ、甲子園で4番ピッチャーのエースを務めるまで実力を伸ばす。

 

③甲子園の試合で満洲男が活躍している裏で満洲男の母は危篤となり、逝去。満洲男は死に目に会うことが出来なかった。このことがきっかけで満洲男は野球を辞める決意をする。セツコが母の遺影の前でかみしめるように涙を流す場面を満洲男は目撃する。この晩、満洲男はセツコから父の遺書を渡される。この遺書は祖父の知らぬところであり、それを知った祖父にセツコは詰問される。その際にセツコが父の元恋人だったが、そのことを察した祖父がセツコと別れさせるために凌辱したという過去があった事が判明する。「息子の愛した女をすべて自分のものにする」と詰め寄るセツコに過去に決着を付けようと祖父が服を脱がせ始めるが、テルミチが見学と称してその場に侵入する。しびれを切らした祖父が席を立つとテルミチはセツコに対して”教育”を志願する。黙って受け入れるセツコ。その様子を陰で聞いていることしかできなかった満洲男はリツコと自分たちは兄弟かもしれないと話し、接吻する。

 

④時は巡り、共産主義者の叔父が結婚することになった。嫁もまた同じ思想の持ち主の様で便が立つ風に見える。時代背景はうたごえ運動の最中、一人ずつ一曲祝い唄を歌ってまわることになる。祖父が自分も一曲と歌を歌い出すも歌い始め以降歌詞が出てこない。助け船を出したのはリツコだった。満洲男の番になり、しぶしぶ立ち上がると隣に居たテルミチが同時に立ち上がり中国の馬族の歌を歌う。中国で戦争犯罪者としての刑期を終えたばかりのタダシの父ススムに一曲歌えと叔父が詰め寄るも、ススムは一言もしゃべらない。父の態度に痺れを切らしたタダシが軍歌「戦友」を歌いながら詰め寄るも、何もしゃべらない。

 

⑤「親戚一同の前で父を社会的に殺した」タダシはテルミチと満洲男と共にやけ酒を飲んでいる。タダシは7歳のころから父に会っておらず、父がどういった人物なのかも知らないのだった。酒をあおる三人の元にセツコがやってくる。タダシは「父親を殺したい、女では満足できない、人を殺したい」と告白、テルミチは「お前は一人二人を殺して満足するのではなく、国家全体を変革するような人間になれ」と一括し、タダシはその場を去る。セツコは母のリツコが最近死にたいと洩らしていると告げる。満洲男はリツコとテルミチの初夜が関係しているのではないかと勘繰り、テルミチを問い詰める。三人で一つの布団に入りながら「あの日僕は女性的なものを教わったのだ」と言うテルミチ。満洲男はあの夜からリツコの事を気にかけていたと気づき、日本刀を持ってリツコの元へ走る。

 

⑥リツコの元へ行くと、セツコの女心をわかっていないと笑われる満洲男。満洲男は自分には命を捨てる覚悟がある、もしあなたが死ぬならともに死にます、と心中を申し出るも一笑に付されてしまう。リツコは日本刀を気持ちとして受け取る。その後満洲男が部屋に戻ると、テルミチとセツコが抱き合って寝ていた。誰にも受け入れられなかった満洲男は庭で悔し涙を流す。

 

⑦翌朝、リツコが日本刀で刺されて死んでいた。自殺ということで済まされたが、明らかな他殺であった。リツコに刺さった刀を抜き、タダシに渡すススム。しかしなぜか上裸のタダシはその刀を持とうとしない。満洲男は祖父が殺したのだと考えていた。

 

⑧場面が現在へ移る。島へ向かうセツコと満洲男。満洲男が永遠に7つの海をさまようことになってしまった、呪われたさまよえるオランダ人の話をする。「自分も彼の様に呪われているのだ」という満洲男に「貴方は呪われたかった人でしかないわよ」というセツコ。

 

満洲男が祖父の見初めた女性と結婚することになるも、花嫁が式当日の朝に急性盲腸にかかったといっていくら待っても現れない。タダシは警察官になっており、制服で式に参列しようとする。それを咎め桜田家のしきたりではそのような服装で参加させることができないと一括する祖父。いくら待っても来ない花嫁に「逃げたのではないか」と疑う叔父たちと「逃げたい」と思う満洲男。しかし各界の政治家を呼んでいるのだから式も披露宴も強行すると告げ、新婦のいない婚姻の儀式が満洲男一人で進んでいく。惨めな気持ちになりながらも、流されるがままに行動する満洲男。それを式場外で見ていたタダシが「こんな茶番辞めちまえよ」と提言し、自らの作った”意見書”を持って式に乱入するも式は滞りなく決行された。

 

⑩その日の晩、ホテルからの道でタダシが交通事故で死ぬ。タダシの”意見書”を読み上げながら泣き続けるススムと、横でむせび泣く満洲男。タダシの死が悲しいのか、みじめな結婚式が辛かったのかもはやわから無いまま酒を煽り、錯乱して枕を新婦に見立て、「これが僕の初夜だ」と言い始める満洲男。気でも狂ったのかと心配する叔父たちの元へ祖父とテルミチがやってくる。満洲男を諫めようとした祖父に満洲男は襲い掛かる。テルミチは逃げる祖父を転ばせて足で踏み倒し、「これがあなたの責任だ」と言い放つ。

 

⑪祖父が一人神前で声を殺しながら泣いている姿を目撃する満洲男。

 

⑫混乱した満洲男はタダシを棺から担ぎ出し、自らが棺に入って死人の振りをする。それを見つけた親戚一同が気でも狂ったのかと心配する中、セツコが満洲男の手を引く。満洲男が「貴方と結婚していれば」と告げるとセツコは「私はとっくに初夜をすませてしまったのだ」と言い、テルミチの手を求める。テルミチはセツコの手を握るように満洲男に指示し、「これでぼくたちはつながった」とつぶやく。「ぼくが家を出るまで、節子さんの手を握っていろ」と告げ、テルミチは家から姿を消した。満洲男はテルミチはかつて自分の父と結婚するはずだった女性を祖父が凌辱して生まれた子だったということを知る。

 

⑬祖父の葬式で10年ぶりに再開するセツコと満洲男。テルミチの姿はない。満洲男は野球をあきらめたにも関わらず、母校で野球の監督として働いていた。祖父の跡をつげ、早く子供をつくれと親戚一同に責め立てられ、自分の人生を生きるよりも疲れ切った満州男は横になって倒れている。様々なものが彼にのしかかり、弟を埋めたトラウマが激しく押し寄せ「お兄ちゃんが砂をかけてくる、息ができない」と混乱し始める満洲男。それを見たセツコがかわいそうと、慰める。

 

⑭「テルミチ、シス」という電報を受けてテルミチとセツコはテルミチの暮らしていたという離島、そして小屋へ向かう。小屋は扉と言う扉が全て釘で打ち付けられており、二人で無理やり小屋をこじ開ける。室内はまるで生活感がなく、どのような生活をしていたのか痕跡を全て消したような風だった。唯一室内に置かれた机の上には祖父の死亡を一面に掲げた新聞、そしてその上に遺書が重ねられていた。壁には血塗られた手跡が残されており、小屋の奥の庭のような場所で全裸のテルミチが倒れていた。

 

⑮遺書には「桜田家の真の跡取りは自分であり、自分の死を持って桜田家を滅ぼす」という旨の内容が書かれていた。遺書を読んでセツコは満洲男に「あなたはおじいさんの葬式をしなければならない人」と先に東京へ帰るように告げる。満洲男が拒否すると、彼女はここで死ぬと告げる。自らで手足を縛り、毒を飲むセツコ。黙ってみている満洲男。

⑯テルミチの横で彼の方を向きながら目を閉じるセツコから逃げる様に小屋を飛び出す満洲男。波打ち際で荒れ狂ったようにピッチングフォームをとる満洲男。すると目前にかつて遊んだ時の様に、セツコ、リツコ、テルミチ、タダシの姿が見える。打ち上げたボールが繁みに入ってしまう。ボールは見つかったか?と追いかける満洲男。波打ち際に真っ白なボールを見つけ、それを拾い上げるとその場に耳を当て音を聞いている満洲男。 終劇。