草も生えない
今日の午後は諸事情で雑用を担当した。
新人一人で鎌を持ち、齷齪と草を刈ること1時間。
ある程度めぼしい草は刈れたんじゃなかろうか、俺は疲れ果ててしまった。
就業時間が近づくとみな会社に帰ってくる。
偉い人間がみな出払っていたので、職場は歓談で盛り上がっていた。
ふいに振られた会話に突然返すということが俺はできない。
集団で会話している中に首を突っ込むなどもってのほかである。
俺は周りの人間が歓談に湧く中、一人で黙々と事務処理をした。
会話に混ざるべきかどうか、考えた。だが出来ない。
突然話し出して白い目で見られる恐怖が心の底に染みついているからだ。
染みついた孤独癖は環境が変わった程度で簡単に拭えるものではない。
俺は1対1の会話ならできるのに、1対1+aの会話はできない。
心の底にいる恐怖の虫が俺の口を紡ぐのだ。「お前にその権利はないぞ」と。
”雑談”ほど難しい物はない。何かについて語り合うことならいくらでもできるが、
何の脈略もない適当な会話程難しい物はないんじゃないだろうか。どうだ。
一度”無口”であることに慣れてしまうと、以後も無口であることに慣れてしまう。
習慣を変えるには行動あるのみである。適当な会話に適当に混ざれるような人間になりたいものだ。